コロナ時代の新たな歯科システムをCoronavirus

  • 2023年3月2日

    (一社)日本歯科医学会連合
    新型コロナウイルス感染症対策チーム

    「エアロゾル・空気感染」に対する
    感染予防策

    科学的根拠に基づく「換気」と
    「密閉空間でのマスク着用」の
    重要性について

    院内感染を防止するためには医療従事者およびスタッフ一人一人が正しい知識をもち、標準予防策(スタンダード・プリコーション)を基本とした対応を全員が確実に行うことが重要です。
    新型コロナウイルス感染症においては、標準予防策に加え、3つの密への対策が重要なポイントとなり、つまり、密閉、密集、密接により感染拡大が起きるというものです。
    「密集・密接」の回避
    「密閉」の回避:換気
    新型コロナウイルスは、従来株から、アルファ株 ⇒ デルタ株 ⇒ そしてオミクロン株へと変異を繰り返し、変異の度に感染力が増してきました。
    本稿で示す研究結果より、オミクロン株のエアロゾルによる拡散のされやすさ、という一因を提示することが出来ました。
    そこで、「換気」と「密閉空間でのマスク着用」の重要性について、下記2つの資料を提示することといたします。

    CHAPTER 1

    やはり換気が重要
     新興感染症に負けない診療環境とは
    — 「空気感染」を考える —
    (新型コロナウイルス感染症対策チーム:小林隆太郎)

    CHAPTER 2

    オミクロン株はなぜ爆発的な感染拡大を引き起こすのか?
    ― エアロゾル感染における「セルフリーウイルスの重要性」を提唱 ―
    (新型コロナウイルス感染症対策チーム:今井健一)

  • CHAPTER 1

    やはり換気が重要
     新興感染症に負けない診療環境とは
    — 「空気感染」を考える —

    「エアロゾル・空気感染」を理解し,「換気」に努める

    WHO もCDC も、「エアロゾル・空気感染」を認めるまでに時間がかかりました。両者とも、換気の悪い空間において、空中を浮遊するエアロゾル粒子を吸入することによって感染を引き起こすことを記載しています。静かな呼気によるものから、激しいくしゃみによるものまで、感染者から放出されるさまざまなエアロゾルによって、換気の悪い室内においてはウイルスの濃度が増していき、伝播経路として成立することが示されています。つまり,換気の悪い閉鎖空間において,感染伝播の引き起こす「ウイルス濃度」の問題が指摘されています.

    「エアロゾル・空気感染」を認めた各機関の経緯を理解するための資料

    ・WHO(世界保健機関)
    ・CDC(米国疾病予防管理センター)
    ・国立感染症研究所

    WHOの見解

    2020.3.29
    ■「主として呼吸性飛沫と接触経路によって人の間で伝播する。中国における75,465症例の解析から、空気伝播は報告されていない」と述べ、空気感染を否定。
    2020.7.7
    ■「換気の悪い環境でのairborne transmission(空気媒介伝播)の可能性」について言及。これまでCOVID-19 の感染様式は接触感染と飛沫感染としていたWHOも、「空気感染」について初めて言及した形となった。
    2021.4.30
    ■「ウイルスを含むエアロゾルや飛沫を吸い込む、もしくは目、鼻、口に直接入ってきたときに感染は起こる」
    ■「ウイルスはまた、人が長時間過ごす換気の悪い、混雑した部屋環境で伝播する。これはエアロゾルが空中を浮遊し、1m以上移動するからである 」として、 エアロゾルが伝播経路であることを認めた。
    2021.12.23
    ■「人は空中を通り過ぎる感染性粒子を短い距離において吸入するとき、ウイルスに感染する。これはしばしば短距離エアロゾルあるいは短距離空気感染と呼ばれる」
    ■「ウイルスはまた換気の悪い混雑した屋内環境(人が長時間滞在する)で拡がる。これはエアロゾルが空中に浮遊し続け、会話の距離を越えて移動するからである。これは長距離エアロゾル、あるいは長距離空気感染と呼ばれる」
    ■2つのタイプの空気感染を明確に記載した。

    CDCの見解

    2021.5.7
    ■ 人は呼気時(静かな呼吸、会話、歌唱、運動、咳、くしゃみ)にさまざまなサイズの飛沫を形成して、呼吸性分泌物を放出する。これらの飛沫はウイルスを運び、感染を伝播する。
    最も大きな飛沫は数秒から数分で急速に落下、最も小さいもの飛沫は急速に乾燥して形成されたエアロゾル粒子は、数分から数時間、空中に浮遊し続ける。
    ■ 換気の不適切な閉鎖空間に、排気する感染者(特に運動、大声、歌唱などの活動)が長時間(15分~数時間)存在した場合、2m以上離れた人に感染伝播するのに十分なウイルス濃度を空間にもたらす。
    ■ 時に感染者が離れた直後にその空間を通り過ぎた人にも伝播を起こす。

    このように、WHOもCDCも換気の悪い空間において、空中を浮遊するエアロゾル粒子の吸入によって感染を引き起こすことを記載している。

    国立感染症研究所が公表した内容

    2022.1.13
    「現時点でエアロゾル感染を疑う事例の頻度の明らかな増加は確認されず、従来通り感染経路は主に飛沫感染と接触感染と考えられた」とされています。
    時期的、経緯的にみて、WHO やCDC とは異なる表現となっていました。
    2022.3.28
    SARS-CoV-2 は,感染者の鼻や口から放出される感染性ウイルスを含む粒子に、感受性者が曝露されることで感染する。
    その経路は主に3つあるとした。
    ①空中に浮遊するウイルスを含むエアロゾルを吸い込むこと(エアロゾル感染)
    ②ウイルスを含む飛沫が口、鼻、目などの露出した粘膜に付着すること(飛沫感染)
    ③ウイルスを含む飛沫を直接触ったか、ウイルスが付着したものの表面を触った手指で露出した粘膜を触ること(接触感染)

    詳細につきましては下記ご参照ください。
    医歯薬出版「歯界展望」2023年1月8日公開(1月号)
    ■やはり換気が重要COVID-19に負けない診療環境とは ― 「空気感染」を考える ―
     小林隆太郎

  • CHAPTER2

    オミクロン株はなぜ爆発的な感染拡大を引き起こすのか?
    -エアロゾル感染における「セルフリーウイルスの重要性」を提唱-

    概 要

    新型コロナウイルス・オミクロン株感染者の唾液中には、宿主細胞の内外に付随していない裸のウイルス(セルフリーウイルス)が従来株やデルタ株よりも高比率に含まれていることを、世界で初めて発見しました。この成果は、世界3大医学雑誌の一つである JAMA(米国医師会雑誌)の姉妹誌:JAMA Network Open で 2023年1月9日(米国東部標準時11時)に公表されました。細胞に付随しているウイルスと比較すると、セルフリーウイルスはとても小さく軽いため、唾液に覆われた状態でも室内に長時間漂うことが可能です。オミクロン株では、このセルフリーウイルスの唾液への排出量がデルタ株の2.7倍、従来株の17.8倍と大幅に増加したことが、エアロゾル感染による新型コロナウイルス感染症の爆発的拡大につながったものと考えられます。

    掲載論文の詳細

    タイトル:SARS-CoV-2 Omicron variant in human saliva in cell-free form.
    著者名:Imai K*, Ikeno R, Tanaka H, Takada N.   * corresponding author
    誌名:JAMA Network Open. 2023; 6(1): e2250207.  doi: 10.1001/jamanetworkopen.2022.50207

    研究成果のポイント

    1.オミクロン株感染者では、唾液中のセルフリーウイルスの量が1ml中に約 321 万個で、従来株の約18万個 やデルタ株の約117万個と比較して大幅に増加していることを発見しました。さらに全唾液中に占めるセルフリーウイルスの割合も、オミクロン株では21.3%と、従来株やデルタ株に比べて約4倍も高いことが判明しました。これらのことが、オミクロン株の感染力の強さの一因と考えられます。
    2.セルフリーウイルスのエアロゾル・空気感染で果たす重要性を世界で初めて提唱しました。

    今回の研究成果を表す概念図
    今回の研究成果を表す概念図
    研究の背景

    新型コロナウイルスは、従来株から、アルファ株 ⇒ デルタ株 ⇒ そして現在のオミクロン株へと変異を繰り返し、変異の度に感染力が増してきました。新型コロナウイルスは口腔内の上皮や唾液腺の細胞に感染し増殖するため1)、唾液中には多くのウイルスが含まれています。そのため、会話やせき・くしゃみの度に放出される飛沫や、より微細なエアロゾルによって伝播され感染が広がります。デルタ株流行時には、この飛沫を介したウイルスの伝播すなわち飛沫感染を防ぐために、飲食店に休業や時短要請などがなされました。その後、感染の主体がデルタ株からオミクロン株に置き換わりましたが、オミクロン株は従来株やデルタ株などと異なり、飛沫感染に加えてエアロゾル・空気感染によって伝播するため、現在の爆発的な感染拡大につながったと考えられています2)。しかし、その仕組みは良くわかっていませんでした。
    私たちは、従来株 ⇒ デルタ株 ⇒ オミクロン株とウイルスが変異するのに伴い、唾液中に排出されるウイルスの量自体が多くなっているのではと推測しました。また、エアロゾル感染が成立するためには、ウイルスが飛沫に含まれて拡散する状態よりも、遠くに飛散しかつ飛沫よりも長時間室内に漂うエアロゾルに含まれて拡散する状態が必要とも考えました。
    そこで、従来株、デルタ株、およびオミクロン株の感染者から採取した唾液を、全唾液と遠心分離で細胞成分を除いた上澄み液とに別け、それぞれに含まれるウイルス量を定量しました3)。ウイルスはとても小さく軽いため、唾液中にウイルス粒子単独で浮遊しているセルフリーウイルスは、1万G程度の遠心操作では沈殿せず、上澄み液に残ります。一方、感染細胞に付随したウイルスは周囲の正常な細胞と共に遠心操作によって沈殿するため上澄みからは完全に除去されます。

    結果の概要

    従来株では、全唾液1ml中に約 123 万個(中央値、以下同じ)のウイルスが存在していることがわかりました。その内、セルフリーウイルスは1ml中に約18万個で、全唾液中のウイルスに占めるセルフリーウイルスの割合は約 5.9 %でした3)(下図参照)。
    デルタ株では、全唾液1ml中に約1860万個と従来株に比べて15倍ものウイルスが存在していました。その内、セルフリーウイルスは1ml中に約117万個で、全唾液中に占める割合は約4.8 %で従来株と類似した値でした。
    これら2株に対しオミクロン株では、全唾液1ml中にデルタ株の半分強、約952万個のウイルスが存在していました。しかし驚くことに、セルフリーウイルスは1ml中に約 321 万個で、デルタ株の2.7倍、従来株の17.8倍と大幅に増加していました。全唾液中に占める割合は約 21.3 %で、従来株やデルタ株と比較して約4倍もセルフリーウイルスの割合が増加していることが判明しました。

    結果の概要
    考 察

    唾液中の口腔細胞の中にはウイルス感染細胞(細胞内や細胞周囲に多くのウイルスが付随)が多く存在しています。これらの細胞は直径 10 マイクロメートル以上、平均で通常 15 マイクロメートル程度と大きく重いので、飛沫内容物として飛沫と共に吐き出されたとしても1~2 m ほどで落下してしまいます。一方で、唾液中に排出されたセルフリーウイルスはとても小さく(0.1マイクロメートル)、小さな飛沫や飛沫核(直径 5 マイクロメートル以下)として空気中に長時間漂うため、エアロゾル感染を引き起こすことになります。今回の研究によりオミクロン株ではこのセルフリーの状態のウイルスの割合が、それ以前に発生した2株よりも圧倒的に高かったことが判明しました。これは、オミクロン株では他の2株よりも唾液腺や口腔上皮細胞内での増殖が速く、唾液中により多く排出されているためと考えられます。そもそも唾液中のフリーウイルスの量が多ければ、新たな宿主に到達した際に新型コロナウイルスの受容体であるACE2への結合がしやすく、感染効率も自然と高まることになります。さらに、セルフリーウイルスは細胞付随ウイルスよりも 3 倍近い速さで新たな未感染の細胞に感染する1)ので、セルフリーウイルスが唾液中に多く含まれることは感染爆発の主要な原因となり得ます。

    本研究成果が社会に与える影響 (本研究成果の意義)

    オミクロン株の出現以降、家庭内二次感染やクラスター形成が顕著に増加した結果、爆発的感染となりました。2023年1月まで続いた第8波では1日あたりの感染者数・死者数も過去最高を更新しています。また、細胞にさらに感染しやすくなったり、免疫から逃れやすくなったりしている新たなオミクロン株も出現していますので、今後も注意が必要です。
    本研究により、オミクロン株が「なぜ爆発的な感染を引き起こすのか?」の疑問に対して、唾液中のセルフリーウイルスの増加、すなわちオミクロン株のエアロゾルによる拡散のされやすさ、という一因を提示することが出来ました。この成果は、オミクロン株流行時には感染者がいつどこで感染したのかがわかりづらくなっていることや、大規模クラスターが多発している現状を説明し得るものと考えられます。また、感染予防策としての換気の必要性と密閉空間でのマスク着用励行の科学的根拠を示す一端にもなり得ます。そこで、特に高齢者や基礎疾患等を有する方々と面会する場合、およびそれらの方々が集まる場所や医療機関などでは、目に見えないエアロゾル対策としての換気と密閉空間でのマスクの着用は重要と考えられ、引き続きこれまでの感染予防策を継続することが推奨されます。
    さらに本研究は、「エアロゾル・空気感染におけるセルフリーウイルスの重要性」を初めて提唱したという点でも重要です。この概念は、新型コロナウイルス感染症のみならずインフルエンザや麻疹、水ぼうそうなどの他のウイルス感染症に適応されるのはもちろんのこと、未知のウイルス感染症が発生した際、そしてウイルスに変異が生じる度に、そのウイルスの性状を知り「感染対策を企てるための基本概念」として適用されるものと考えます。

  • (文献)

    • 1)Huang N, Pérez P, Kato T, Mikami Y, Okuda K, Gilmore RC, et al.; SARS-CoV-2 infection of the oral cavity and saliva. Nature Medicine 2021; 27:892-903.
    • 2)Madewell ZJ, Yang Y, Longini IM Jr, Halloran ME, Dean NE; Household Secondary Attack Rates of SARS-CoV-2 by Variant and Vaccination Status: An Updated Systematic Review and Meta-analysis. JAMA Network Open 2022; 5:e229317.
    • 3)Imai K, Ikeno R, Tanaka H, Takada N; SARS-CoV-2 Omicron variant in human saliva in cell-free form. JAMA Network Open. 2023; 6(1): e2250207. doi: 10.1001/jamanetworkopen.2022.50207
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